齊藤惇日本画美術館(愛称★星のおじさま美術館)
ここは日本画の新たな聖地、“千葉の五浦(いづら)”、大原です。外房いすみ市大原漁港から車で南へ走ること5分。怒涛逆巻く断崖絶壁の海岸線に出ます。その断崖の頂には、懸造りの七福天寺があり、寺の麓にある昼なお暗い隧道を抜けると、伊勢海老漁の人のみ通う秘境の入り江へと辿り着きます。その砂浜に立てば岡倉天心や横山大観が北茨城五浦で見ていた堂々たる朝日と黄金の海をあなたも独り占めにすることができます。房総の名工波の伊八の龍のように跳ねて砕ける白波が、千年の孤独も憂愁も1秒で消し去ってくれます。その海辺の森に緑色の三角屋根のログハウス、齊藤(さいとう)惇(あつし)日本画美術館(愛称★星のおじさま美術館)があります。星降る夜には、ゴッホの描いた《星月夜》を走る銀河鉄道の始発駅となり、ダイアナ・ロス♪エンドレス・ラブ♪の流れるピアノバーに変身します。
齊藤惇(1925大正14年-2009平成21年)は山口市の料亭菜香亭(さいこうてい)3代目主人齊藤泰一(たいいち)の末息子として生まれ、多摩造形芸術専門学校(現多摩美術大学)で郷倉千靭(ごうくらせんじん)教授(日本美術院同人)に師事。日本画を学びます。学徒動員の後に復学し、日本画科を首席で卒業。1948昭和23年には森兼幸子(もりかねさちこ)と結婚。長女美絵子(みえこ)、長男泰嘉(やすよし)の2人の子をもうけます。1955昭和30年、青雲の志を抱いて山口から千葉県佐倉市に移り住み、佐倉市立南部中学校教員となります。以後、房総の地が第二の故郷となり、四街道中学校でも教鞭をとります。院展で入選、入賞を重ね、日本美術院特待になります。
初期、30代の絵では身のまわりの動植物や房総風景を画題とし、幾何学的な構成美を追求します。中期、40代には幻想的心象風景の表現へと変化します。九州や北海道を旅し、キリスト教の教会堂や修道院を変幻自在の雲と空に包んで描いたのもこの頃です。1975昭和50年9月、第60回院展出品の《天草の教会》で初の奨励賞を受賞。翌月に恩師郷倉千靭先生の他界という突然の悲しみに出あいますが、これを乗り越え、1978昭和53年、第63回院展入選の《矢切》で日本美術院特待になります。1984昭和59年には千葉県美術会常任理事に就任。後期、50代後半から中国、インド、フランスなどを旅して世界遺産のある風景を雄大かつ細密に描き、その崇高さを表現する超越的画境を確立します。
晩期、70代後半からは、かつて30代に描いた房総の身近な風景に再び取り組むようになり、そこに生きる子どもや若者の暮らし、さらに印旛沼の夕景、片貝や御宿など漁港の賑わい、白浜町野島崎の灯台などに目を向けます。2002平成14年には地域文化功労者文部科学大臣表彰を受けます。また、2003平成15年《東京ミレナリオ》(8度目の奨励賞受賞)で描いた丸の内の夜景など現代都市の華麗な幻影を日本画で描くことに果敢に挑戦します。
瑠璃光寺(るりこうじ)五重塔やザビエル記念聖堂など西の京山口という歴史の町に育ち、里山里海の自然に恵まれた房総の地で才能を開花させた齊藤惇は、東京都美術館が発表の舞台である日本美術院など中央で活躍するとともに千葉県という地域で日本画の発展を推し進め、後進を育てることに情熱を注ぎました。佐倉市ユーカリが丘にあるNHK文化センターでは長年にわたり日本画教室の講師をつとめました。母校である多摩美術大学校友会名誉理事として、また、千葉多摩美会の初代会長として後輩への温かい指導を惜しみませんでした。
この美術館では齊藤惇の初期作品から絶筆まで約30点を年代順で展示し、その画業を紹介します。初期作品では、《にわとり》(1957昭和32年)、《泰山木》(1958昭和33年、院展初入選作)、《鉄塔と月》(1959昭和34年)、《サーカス》(1963昭和38年)、中期作品では《天主堂の島》(1972昭和47年)、後期作品では《月光》(1994平成6年)、《江南風景》(1994平成6年)、晩期作品では《舞う》(2002平成14年)、《映》(2003平成15年)、《東京ディズニーランド》(2004平成16年)などをご覧いただけます。
齊藤惇は日本美術院を創立した岡倉天心や横山大観を敬愛し、また、ドイツ・ロマン派のC.D.フリードリヒや異端の画家リチャード・ダッド、現代美術家アンゼルム・キーファーなどに関心を寄せ、さらに東洋の遠近法である三遠法を研究するなど古今東西の美術に学び、新しい日本画の創造と教育を生涯貫きました。また、“不思議さの美”に惹かれる若い感性を持ち続けました。齊藤惇日本画美術館の扉を開けた皆さんが、帰ってきた星のおじさまと出会えることを願ってやみません。(館長 齊藤泰嘉)
齊藤惇日本画美術館(愛称★星のおじさま美術館)
〒298-0004
いすみ市大原2692-9
TEL 0470-67-4085
JR外房線大原駅より車で10分
開館日不定期(完全予約制のため事前予約をお願いします)
予約連絡先★さいとうやすよし携帯 090-9203-9540
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